大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成6年(行ケ)175号 判決

東京都千代田区内神田1丁目11番13号

原告

楠本化成株式会社

同代表者代表取締役

楠本弘二

同訴訟代理人弁護士

増田英男

同訴訟代理人弁理士

西良久

大阪市北区天神橋3丁目5番6号

被告

タバイエスペック株式会社

同代表者代表取締役

島崎清

同訴訟代理人弁護士

村林隆一

松本司

今中利昭

吉村洋

浦田和栄

岩坪哲

田辺保雄

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

(1)  特許庁が平成4年審判第23236号事件について平成6年5月26日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告は、名称を「熱雰囲気試験装置」とする特許第1215587号発明(以下「本件発明」という。)の特許権者である。

本件発明は、昭和56年9月7日、訴外株式会社日本サーミックによって特許出願(昭和56年特許願第141290号)され、昭和58年11月7日、出願公告(昭和58年特許出願公告第49817号)がなされた上、昭和59年6月27日、特許権の設定登録がなされたが、その後、原告に対し、上記特許権が譲渡され、昭和61年9月22日、その旨の移転登録がなされたものである。

被告は、平成4年12月9日、特許庁に対し、原告を被請求人として、本件発明の特許について無効審判を請求し、同年審判第23236号事件として審理された結果、平成6年5月26日、「特許第1215587号発明の特許を無効とする。」との審決がなされ、その謄本は、同年6月22日、原告に対し送達された。

2  本件発明の特許請求の範囲

冷却手段及び冷却された低温気体を移動させるファンを備えた低温気体供給室と、加熱手段及び加熱された高温気体を移動させるファンを備えた高温気体供給室と、前記両気体供給室に繋がり試料出入口扉を備えた試験室と、所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段とを、試験室に対して各々断熱壁体で仕切って所要配置で組合せ、試験室に対する各気体供給室及び外気導入排出部は該試験室の両端部にて各々入口と出口とを開口し、この各開口部には各温度条件の気体ごとの出口と入口とを同時に外部から開閉操作される断熱扉を付設し、試験室への気体出入位置より内側には整流板を両側に設けたことを特徴とする熱雰囲気試験装置(別紙図面(1)参照)

3  審決の理由の要点

(1)  本件発明の要旨は前項記載のとおりである。

(2)  これに対し、請求人(被告)は、本件発明は審判手続における甲第1、第2号証(本訴における乙第1、第2号証)、第3ないし第7号証に記載された発明、技術に基づいて容易に発明することができたものであるから、その特許は無効とされるべきものであると主張し、証拠方法として、上記甲第1ないし第7号証を提出する。

(3)  そこで検討するに、審判手続における甲第1及び第2号証(本訴における乙第1及び第2号証)には次のとおりの発明及び技術が記載されている。

ア 審判手続における甲第1号証(本訴における乙第1号証、西ドイツ国特許第2650686号公報、昭和55年5月2日特許庁資料館受入れ、以下「引用例1」という。)

冷却器19及び冷却された低温気体を移動させる送風機24を備えた冷却室7と、加熱装置12及び加熱された高温気体を移動させる送風機17を備えた加熱室5と、冷却室7及び加熱室5に繋がり、試料出入口ドア4を備えた試験室6と、所要時、外気が試験室6に送り込まれるようにした新鮮空気導管32及び圧力調整器33とを備え、冷却室7及び加熱室5は、試験室6に対して各々壁体で仕切って所要配置で組み合わされ、試験室6に対する冷却室7及び加熱室5は、該試験室の両端部において各々入口と出口とを開口し、空気導管32及び圧力調整器33は、試験室6に接続開口され、試験室6と、冷却室7及び加熱室5との間の各開口部には、各温度条件の気体毎の出口と入口をエアシリンダー10、11で外部から開閉操作する断熱スライダー8、9を付設した温度可変室(別紙図面(2)参照)

イ 審判手続における甲第2号証(本訴における乙第2号証、「分析機器」3巻9号株式会社産発昭和40年9月1日発行、28頁の図2、以下「引用例2」という。)

物品収納部分への気体の出入位置より内側に吸込口レジスタと吹出口レジスタを設けた恒温恒湿器(別紙図面(3)参照)

(4)  本件発明と引用例1記載の発明とを比較すると、引用例1記載の発明の「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」は、所要時、外気が試験室6に送り込まれるようにするその機能から、本件発明の「外気連通開閉手段」に相当することから、両者は、

「冷却手段及び冷却された低温気体を移動させるファンを備えた低温気体供給室と、加熱手段及び加熱された高温気体を移動させるファンを備えた高温気体供給室と、前記両気体供給室に繋がり、試料出入口扉を備えた試験室と、所要時、外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段とを、試験室に対して、各々壁体で仕切って所要配置で組み合わせ、試験室に対する各気体供給室は、該試験室の両端部にて各々入口と出口とを開口し、この試験室に対する各気体供給室の開口部には、各温度条件の気体毎の出口と入口とを同時に外部から開閉操作する断熱扉を付設した熱雰囲気試験装置」

である点において一致し、次の点において相違する。

ア 試験室を仕切る壁体について、本件発明では「断熱壁」と限定されているのに対し、引用例1記載の発明では、このように限定されていない点

イ 外気導入排出部について、本件発明では、「試験室の両端部にて各々入口と出口とを開口し、この各開口部には同時に外部から開閉操作される断熱扉を付設し」と限定されているのに対し、引用例1記載の発明では、このように限定されていない点

ウ 本件発明においては、「試験室への気体出入位置より内側には整流板を両側に設けている」のに対し、引用例1記載の発明では、このような整流板を有していない点

(5)  次に、上記相違点アないしウについて検討する。

ア 相違点アについて

およそ、温度変化を与えたり、所望温度に維持すべき領域を、断熱壁体で仕切ることは、熱経済及び安全性の観点から、当技術分野において用いられる常套手段であるから、本件発明において、高温域から低温域まで室温が変化する試験室を仕切る壁体を、断熱壁とすることは、単なる常套手段の採用にすぎず、この点に格別の困難性は認められない。

イ 相違点イについて

引用例1記載の発明においても、試験室内での高温及び低温気体の流れ方を、各出入口から試験室内に向かってU字型の流れとするために、試験室に対し気体を供給する各気体供給室の入口と出口を、該試験室の両端部において開口せしめ、かつ、熱経済及び安全性の観点から、この各開口部には、外部から同時に開閉操作される断熱扉を付設している。したがって、同じ観点から、この技術を外気導入排出部に適用して、「試験室の両端部にて、外気導入排出部の入口と出口とを各々開口し、この各開口部には、同時に外部から開閉操作される断熱扉を付設する」程度のことは、当業者が容易になし得る、単なる改変にすぎず、この点に格別の創作があったものとは認められない。

ウ 相違点ウについて

温度分布を均一化する目的で、試料格納部の気体出入位置より内側に整流板を設けることは、当技術分野において周知の技術であり(引用例2に記載された吹出口レジスタ参照)、また、より気流を整えるために、単に整流板を両側に設ける程度のことも、当業者が必要に応じてなしうる設計事項であるものと認められるから、「試験室への気体出入位置より内側には整流板を両側に設ける」ことも、周知技術の単なる適用にすぎないものであり、当業者であれば容易になしうるものである。

エ なお、被請求人(原告)は、本件発明における外気連通開閉手段は試験室内を常温に曝して試料を試験する「常温さらし」用のものであるのに対し、引用例1にはそのような記載がない旨主張しているが、本件発明は、特許請求の範囲において、「外気連通開閉手段」が、試験室内を常温に曝して試料を試験する「常温さらし」用のものであると限定されているわけではない。更に、引用例1においては、「本発明によると、試験材料を動かすことなしに、温度可変器室の中で急激な温度降下だけでなく、急激な温度上昇を得ることが可能である。(略)中央の区画(試験場所)の雰囲気は、調和しつつ特定のプログラムで制御される。(略)試験室はそのほかに新鮮空気で温度調整することができる」(2欄7行ないし21行)と記載されており、しかも、熱衝撃試験において、低温~常温~高温~常温のような温度サイクル試験条件を用い、「試験室内を常温にさらして試料を試験する「常温さらし」」も、MIL規格にあるように、当技術分野では周知の試験方法であるから、引用例1記載の発明も、上記周知のMIL規格による試験を前提にしていることは明らかである。してみると、引用例1における、「試験室はそのほかに新鮮空気で温度調整することができる」という記載は、「常温さらし」を意味することが自明であり、したがって、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」が、「常温さらし」のための設備であることは自明である。

オ そして、上記相違点アないしウに基づく本件発明の作用効果も格別なものとは認められない。

(6)  以上によれば、本件発明は、引用例1記載の発明及び引用例2記載の技術に基づいて、当業者が容易に発明することができたものと認められるから、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであり、同法123条1項1号に該当する。

4  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)は争う。

同(2)は認める。

同(3)アのうち、引用例1において、引用例1記載の発明が、所要時、外気を試験室6に送り込むための「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」を備えている旨の記載があることは否認する。

同(4)のうち、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」が、本件発明の「外気連通開閉手段」に相当すること、本件発明と引用例1記載の発明とが、所要時、外気を試験室に送り込むようにした「外気連通開閉手段」を備える点において一致することは否認し、その余は認める。

同(5)アないしウ、オは争わない。同エは争う。

同(6)は争う。

審決は、本件発明の要旨の認定を誤るとともに、本件発明の「外気連通開閉手段」が、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」に一致するものと誤って認定した結果、本件発明が、引用例1及び2記載の発明及び技術から容易に発明することができたとしたものであるから、違法であり、取り消されるべきである。

(1)  本件発明の要旨認定の誤り(取消事由1)

本件発明の特許請求の範囲(以下「本件特許請求の範囲」という。)の記載における「外気連通開閉手段」とは、本件発明の明細書(以下「本件明細書」という。)中における本件発明の目的、作用効果の記載からみて、試料について「常温さらし」を行うためのものと解するのが相当である。したがって、本件発明の要旨には、「外気連通開閉手段」を用いて、試料の「常温さらし」を行う構成が含まれているにもかかわらず、審決は、これを看過し、本件発明の要旨として、本件発明が「外気連通開閉手段」により「常温さらし」を行う構成(「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした常温さらし用の外気連通開閉手段」)を有するものと認定しなかったのであるから、審決には、本件発明の要旨の認定を誤った違法がある。

すなわち、本件明細書の「発明の詳細な説明」の項には、「外気連通開閉手段」について次のとおり記載されている。

ア 本件発明の目的について

「本発明は従来の問題点を解決して、試料を試験室内に定置した状態で、該試験室に対して高温又は低温のいずれか並びに室温の各雰囲気となるよう、加熱源又は冷却源からの気流を切換えて、これら操作を外部からの指令により所要の設定条件に基づき容易に実施できるようにしたものである。」(本件発明の出願公告公報(以下「本件公報」という。)2欄24行ないし29行)

イ 本件発明の作用について

「本発明にては試験室内の雰囲気を低温から高温又はその逆の状態、或いは中間で室温にするなどの制御を、各扉の開閉操作機構を予め設定した制御機構によって所定の順序で開閉操作し」(同3欄12行ないし15行)

ウ 本件発明の効果について

「叙上の如く本発明によれば、試料を試験室内に定置して、この試験室に対して熱風を送り込んで循環させることで高温に、また冷気を送り込んで循環させることで低温に、更に外気を送り込むことで常温に、それぞれ曝して試験することができ」(同7欄9行ないし13行)

以上のとおり、本件特許請求の範囲に記載された、「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」を設ける構成は、外気連通開閉手段を用いて、所要時に外気を試験室に送り込み、「常温さらし」を行う構成を意味することが明らかである。

他方、引用例1記載の発明においては、後記(2)のとおり、「常温さらし」のための構成を有しない。

したがって、審決は、本件発明の要旨の認定を誤ったものであり、その誤りが、審決の結論に影響を及ぼすものであることは明らかである。

(2)  本件発明と引用例1記載の発明との一致点の認定の誤り(取消事由2)

ア 審決は、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」が「常温さらし」のための設備であると認定しているが、上記「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」は「常温さらし」のための設備ではなく、引用例1には「常温さらし」のための構成は記載されていない。

すなわち、引用例1においては、同引用例記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」をもって、高温又は低温に維持された試験室内を、いかにして常温にまで温度調節するかについて、全く開示されていない(なお、上記の「圧力調整器33」は、空気導管に付属するものであり、「圧力調整器33」付き新鮮空気導管というべきものである。)。

(ア) まず、引用例1に記載された「新鮮空気導管32」については、その構造、作用が不明である。

この導管が、独立して試験室に差し込まれた管であるならば、それは中空パイプであり、通路は常時開いているから、試験室内の空気が導管を通って外部に流出したり、逆に外気が試験室内に流入したりすることになるため、試験室内においては、高温さらしや低温さらしを行うことができない。

そのため、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32」と「圧力調整器33」とは、合わせて、試験室に接続された1本の導管であり、概略図である同引用例に添付された図面(別紙図面(2))においては、単に別々に記載されたものにすぎないとみるのが自然である。

(イ) また、引用例1記載の発明における「圧力調整器33」は、常時はそれが備えられた導管の通路を閉じており、試験室内の圧力が高い場合には、通路を開いて圧力を外部に逃がし、圧力を調節するという構造である。

この構成では、上記のとおり、試験室内の圧力が高い場合には、これを外部に逃がすことができるが、試験室内の圧力と外部の気圧とが等しい場合には、試験室内の空気を外部に排出することはできない。そのため、試験室内の温度と外部の温度とが異なっていても、両者の圧力や気圧が同じであれば、試験室内の空気は排出されず、「新鮮空気導管32」から試験室内に新鮮空気を導入することはできない。

換言すれば、この構成によっては、外気の導入、導出が制御されるだけであり、「開閉手段」を用いて外気を試験室内に大量に導入ないし導出する構成は示されておらず、試験室内の温度調整が行われるというものではない。「圧力調整器33」には、所望のときに、試験室内の圧力を制御して、試験室内を外気圧より高い圧力にしたり、低い圧力にしたりするという技術的意味はない。

したがって、引用例1記載の発明における「圧力調整器33」により、外部の新鮮空気を導入、排出して、試験室内を常温に温度制御することは、技術的に不可能である。

(ウ) このように、引用例1記載の発明における温度調節とは、主に、加熱装置と冷却器とを制御して、熱衝撃試験ないしは温度サイクル試験において必要とされる、高速度の高温と低温の温度変化を行うということにあるにすぎない。

(エ) ただし、「圧力調整器33」付き空気導管によって、試験室内の圧力の調節が行われ、これに伴って新鮮空気が導入され、この導入された新鮮空気によって試験室の温度調整が行われる場合もあり得るところであるが、これは、試験室内を常温にする目的で行われるものではなく、圧力調整に伴って行われる温度調整にすぎない。

引用例1の記載において、「新鮮空気で温度調整をすることができる」とあるのは、上記のとおり、「補助的」に行われる温度調節の意である(なお、前記3(5)エにおける、引用例1の記載についての、「試験室はそのほかに(zusatzlich)新鮮空気で温度調整することができる」との日本語訳部分は、「試験室は補助的に(zusatzlich)新鮮空気で温度調整することができる」と訳されるべきである。)。

すなわち、従来のMIL規格においては、温度サイクル試験や熱衝撃試験による「高温さらし」や「低温さらし」といった、極端な温度条件による試験を行うにあたっては、それぞれ別個の槽(温槽と冷槽)を使用しなければならないとし、試料をそれぞれの槽に移し換えてから、2分以内に、周囲の温度が規定の高さ又は低さに達し、それが保持されるように、二つの槽の空気の温度を、循環法、又は温槽や冷槽に十分な熱容量を持たせる方法により調整しなければならないとされている。

したがって、引用例1記載の発明の場合のように、試料を試験室内に定置した状態において、温度サイクル試験や熱衝撃試験を行う場合には、試験室内の温度を短時間(規格では2分間)で変化させることになるため、試験室内の圧力は、上記の温度変化に伴い変化することになる。

しかしながら、熱雰囲気試験装置は、試験室内の試料に対し、温度の要素だけを与えるためのものであるため、温度変化に伴い試験室内の圧力に変化が生じ、試料に対し圧力の要素をも与えることは避けるべきであり、試験室内の圧力については、常時一定に維持する必要がある。

引用例1記載の発明は、前記のとおり、「圧力調整器33」付き空気導管を備えるものであるが、同引用例においては、この「圧力調整器33」が、温度変化により試験室内の圧力が外の気圧より高くなった場合に減圧し、外の気圧と同じになるように調整する構造であるとともに、圧力調整時に付随して導入される空気により、試験室内の温度が調整されるものであるにすぎないことを開示している。

(オ) また、仮に、引用例1記載の発明において、上記「圧力調整器33」により試験室内の圧力を変化させ、外から新鮮空気を大量に導入して、試験室内を極端な高温や低温から常温に変化させることを意図した場合を考えると、試験室内に定置されている試料に大きな圧力がかかってしまい、温度要素の変化だけで行う試験において、不必要な圧力要素の変化による影響を与えてしまうことになるので、温度サイクル試験や熱衝撃試験を行うことが結局は不可能になる。

加えて、新鮮空気導管により新鮮空気を試験室内に出入りさせる場合には、導管の口径に対応する風が試験室内に出入りするので、風の流れに過疎ができ、試験室内をむらなく一定の温度にすることはできない。

(カ) 以上からみるならば、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」が「常温さらし」のための設備ではなく、引用例1には、「常温さらし」の構成が全く記載されていないことは明らかである。

イ 一方、本件発明の「外気連通開閉手段」は、前記(1)のとおり、熱雰囲気試験装置において「常温さらし」を行うための設備である。

すなわち、本件発明は、試験室の両端部に、開閉可能な断熱扉による入口と出口を有する外気導入排出部を備えた外気連通開閉手段を設けており、試料を動かすことなく、試験室内に外気を導入することができる。

更に、外気の試験室内への導入や排出に際して、試料に圧力変化を与えることは全くない。

その上、試験室の、気体出入位置より内側には、整流板を両側に配置してあるので、外気導入時における外気の風の影響を抑えて、むらのない常温の影響だけを試料に与え、「常温さらし」を行うことができるものである。

ウ 以上のとおり、本件発明の「外気連通開閉手段」の構成と、引用例1記載の発明の「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」の構成とは一致するものではない。

したがって、審決において、本件発明の「外気連通開閉手段」が、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」に一致するものと認定したことは、誤りである。

第3  請求の原因の認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3の各事実は認める。

同4は争う。

審決の認定、判断は正当であり、審決に原告主張の違法はない。

2  取消事由についての被告の反論

(1)  取消事由1について

ア 特許出願に係る発明の新規性、進歩性の前提としての発明の要旨の認定は、特段の事情のない限り、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきである。特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確でない場合、又は、一見してその記載が誤記であることが明細書の発明の詳細な説明の記載に照らして明らかである場合などの特段の事情のある場合に限って、明細書の発明の詳細な説明の記載を参酌することが許されるにすぎない(最高裁判所平成3年3月8日判決参照)。

イ しかるところ、本件発明の特許請求の範囲の記載の技術的意義は一義的に明確であり、誤記もない。

したがって、審決が、本件発明の要旨を、特許請求の範囲に記載されたとおりのものと認定したことは正当であって、何らの問題もない。

ウ 更にいえば、審決は、「本件発明の特許請求の範囲においては、「外気連通開閉手段」が、試験室内を常温にさらして試料を試験する「常温さらし」用のものであると限定されているわけではない。」と正しく認定し、更に、本件発明の要旨が、原告の主張するように、「外気連通開閉手段」を「常温さらし」に用いる構成を含むとしても、引用例1には、「常温さらし」の構成が開示されているものと認定しているのであって、その認定は正当である。

エ したがって、原告の、取消事由1についての主張は失当である。

(2)  取消事由2について

ア 引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」は「常温さらし」のための設備である。

(ア) すなわち、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32」と「圧力調整器33」は、引用例1において別の番号が付されていることからも明らかなように、それぞれ別の部材である。そして、引用例1においては、同引用例に添付の図面(別紙図面(2))に記載された矢印のとおり、新鮮空気が「新鮮空気導管32」により試験室内に導入され、試験室内の空気が、「圧力調整器33」付き空気導管により、試験室から外部に排出されることが示されている。

「常温さらし」とは、室温の雰囲気下に試料を置くことであり、試験室内を常温にするだけのことであるから、「常温さらし」を行うためには、上記の「新鮮空気導管32」及び「圧力調整器33」付き空気導管により、外部の新鮮空気が試験室内に導入され、排出されることでよく、新鮮空気の出入口さえあれば、「常温さらし」は可能である。

(イ) また、本件発明及び引用例1記載の発明とも、その技術的課題は、「常温さらし」を行う装置の発明にはなく、試料を移動することなく温度変化を与える装置の発明にあり、更に、「常温さらし」の構成は、上記のとおり、単に、外部の空気を導入、排出するだけでよく、明細書に詳細な記載がなくとも、当業者に容易に理解され得るものであることから、引用例1においては、その詳細を省略し、「新鮮空気導管32」及び「圧力調整器33」のみを図示したものである。

(ウ) 更に、引用例1記載の発明における「圧力調整器33」による圧力調整とは、外部の新鮮空気を試験室内に導入、排出することであり、「常温さらし」とは全く矛盾することではない。

(エ) そして、引用例1においては、前記3(5)エのとおり、「(略)試験室はそのほかに新鮮空気で温度調整することができる」(2欄7行ないし21行)と記載されており、また、MIL規格でも規定されているように、熱衝撃試験の技術分野では、低温~常温~高温~常温のような温度サイクル試験条件を用いて、試料の「常温さらし」を行うことは周知の試験方法であるから、引用例1記載の発明も、このMIL規格による、「常温さらし」を含む試験を前提とする装置であることは明らかである。

(オ) 以上からみるならば、引用例1記載の発明において、「常温さらし」の構成が開示されていることは明らかである。

(カ) なお、原告は、引用例1記載の発明においては、「常温さらし」のため、開閉手段を用いて、外気を試験室内に大量に導入ないしは導出する構成が示されていないと主張するが、同発明の「新鮮空気導管32」及び「圧力調整器33」付き空気導管が、大量の外気を導入できないものを意味するとする理由はない。

また、原告は、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32」は中空パイプであり、常時開いていると主張するが、引用例1中には、上記導管が常に開いていることを裏付ける記載は全くない。

更に、原告は、この種の試験では、温度変化による圧力変化の影響を避けなければならない旨主張するが、この点については、本件明細書においても、本件発明に関し、温度変化に基づく圧力変化の影響を生じさせない構成について、説明がなされていないところである。

イ 一方、本件発明において、本件発明の「外気連通開閉手段」が「常温さらし」用のものであると限定されているものでないことは、前記1のとおりである。

ウ したがって、本件発明の「外気連通開閉手段」の構成と、引用例1記載の発明の「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」の構成は一致するものであり、原告の取消事由2についての主張も失当というべきである。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1ないし3の各事実(特許庁における手続の経緯、本件特許請求の範囲、審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

また、本件発明と引用例1記載の発明との間における審決記載の一致点のうち、「所要時、外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」を除いた部分について両者が一致すること、両者の間に審決記載のとおりの各相違点が存在すること、上記各相違点についての認定判断が審決記載のとおりであることについても当事者間に争いがない。

なお、引用例1における記載内容が、「所要時、外気が試験室6に送り込まれるようにした新鮮空気導管32及び圧力調整器33とを備え」の部分を除いて、審決に記載されたとおりであること及び引用例2における記載内容が審決記載のとおりであることについては、いずれも原告が明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

第2  本件発明の概要について

成立に争いのない甲第2号証(本件公報)によると、本件発明の概要は以下のとおりである。

1  本件発明は、小型精密機器及びその機器部品、あるいは電子部品等に対する、熱的衝撃や温度サイクル等による熱雰囲気下での耐久性、強度等の試験を、試験室内において、試料の移動を行うことなく、高温域から低温域までの範囲にわたって、切換えにより実施することができるようにした、熱雰囲気試験装置に関するものである(1欄29行ないし34行)。

2(1)  従来、精密機器及びその部品等についての熱衝撃試験や温度サイクル試験を行うにあたっては、目的の試料を、その形状等に応じて、試料支持枠や籠に入れ、これを、試験内容に応じて、高温に保ったチャンバーから低温に保ったチャンバーに、あるいはその逆にと試料を移動させる方式、もしくは、試料を収めたものを固定して、高温チャンバーや低温チャンバーを移動させる方式の試験装置が採用されてきた(1欄35行ないし2欄6行)。

(2)  しかしながら、従来の方式によれば、試料を籠又は支持枠内に収納するため、試験中に試料がはみ出したり、特に小型部品等の試料の場合には、試料の落ちこぼれ等が生じることがあった。

また、試料を移動させる方式のものでは、試料が移動することにより、試料の測定、通電(機器類を通電状態で試験をするような場合)等の試験がやりにくく、かっ、試料に震動を与えることになるため、正確なデータが得られにくかった。その上、支持枠を移動させるため、その機構が複雑となって高価なものとなり、取扱いも不便であった。

更に、試料を固定する方式のものでは、試料の測定、通電等は容易となり、震動も少なくなるが、高温、低温の各チャンバーを移動させることになるため、構造及び機構が大型化して高価なものとなり、取扱いも不便であった。

このように、従来採用されてきた試験装置においては種々の問題点があり、実用上、それによる精度の高い試験は行い難い状況にあった(2欄7行ないし23行)。

3  本件発明は、上記のような従来の問題点を解決し、試料を試験室内に定置した状態で、該試験室が高温又は低温、及び室温の各雰囲気となるよう、加熱源又は冷却源からの気流を切り換えるとともに、これらの操作を、外部からの指令により、所要の設定条件に基づいて容易に実施できるようにすることを目的として、要旨記載の構成を採用したものである(2欄24行ないし3欄11行)。

4  以上により、本件発明においては、試料を試験室内に定置した上、同室内に、熱風又は冷気を送り込んで循環させ、あるいは外気を送り込むことにより、試料をそれぞれ高温、低温又は室温に曝して試験を行うことができるとともに、そのうち、高温又は低温に曝す場合には、装置内に組み込んだ高温気体供給室又は低温気体供給室の各遮断扉を切り換え開閉することにより、直ちに所望の気体を試験室内に供給循環させることができるため、速やかに試験室内の温度設定を行うことができるという作用効果を奏する。

また、本件発明においては、試料を定置して試験を行うことから、試料のはみ出し、落ちこぼれの防止、耐震動性の確保、通電状態での試験の安定化、測定の容易さなど、従来の試験器では難点とされていたものをすべて解消し、しかも、循環気体については、試験室の入口と出口との間において、整流板による流れの安定化が計られ、試料に対する気体の流れを安定させることにより、温度精度が著しく向上し、その上、全体構成が比較的簡素化できて、取扱いも容易になる等、多くの作用効果を奏する(7欄9行ないし8欄4行)。

第3  審決取消事由について

そこで、原告主張の審決取消事由について判断する。

1  取消事由1(本件発明の要旨認定の誤り)について

(1)  原告は、本件特許請求の範囲に記載された、「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」の構成とは、所要時に、外気連通開閉手段を用いて、外気を本件発明の試験室内に送り込み、試料の「常温さらし」を行うための構成を意味するものと解すべきであるとして、上記記載部分についての本件発明の要旨を、「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした常温さらし用の外気連通開閉手段」と認定すべきものと主張する。

(2)  ところで、前出甲第2号証によると、本件明細書中においては、原告の上記主張に係る「常温さらし」との語句が直接用いられている個所はないが、同明細書における以下の記載からみるならば、上記「常温さらし」とは、熱雰囲気試験装置において、試料に温度変化を負荷するに際し、試験室内の温度を室温とするために、外気を試験室内に流入させ、試料を室温に曝すことを指すものであると理解することが可能であり、原告の上記主張もその趣旨であると解される。

ア 「本発明は従来の問題点を解決して、試料を試験室内に定置した状態で、該試験室に対して高温又は低温のいずれか並びに室温の各雰囲気となるよう、加熱源又は冷却源からの気流を切換えて、これら操作を外部からの指令により所要の設定条件に基づき容易に実施できるようにしたものである。」(2欄24行ないし29行)

イ 「本発明にては試験室内の雰囲気を低温から高温又はその逆の状態、或いは中間で室温にするなどの制御を、各扉の開閉操作機構を予め設定した制御機構によって所定の順序で開閉操作し、試験室内に入れた試料に対して所望の温度を加えてテストが行なえるようにしたのである。」(3欄12行ないし17行)

ウ 「試験室10の両側風洞部14、14′の前側位置には該試験室10の運転中において室温状態にするための外気出入口6とこれを開閉する扉7とをそれぞれ設け(略)。そして一方の外気出入口6に対しては本体1外側上部に付設した室温送入用ファン40の吐出側と連結するよう通路が連絡してある。」(5欄4行ないし12行)

エ 「室温導入用の扉7」(5欄17行)

オ 「温度サイクル試験などを行なうにはたとえば室温から所要の時間で次第に高温に、そして所要時間高温を維持した後所要の時間で次第に室温に下げ、その後低温に、そして所要時間低温を維持して室温に戻す等の操作を行なうに際して、高温及び低温にするには前記と同要領にて行ない、室温にするには風洞部14、14′前壁部に設けられた扉7、7を開くと共に室温送入用ファン40を駆動して試験室10内に外気を流動させ、試料を室温に曝してテストすることになるのである。」(6欄24行ないし33行)

カ 「叙上の如く本発明によれば、試料を試験室内に定置して、この試験室に対して熱風を送り込んで循環させることで高温に、また冷気を送り込んで循環させることで低温に、更に外気を送り込むことで室温に、それぞれ曝して試験することができ」(7欄9行ないし13行)

キ (「図面の簡単な説明」として)「40……室温送入用ファン」(8欄22行)

(3)  しかしながら、特許出願に係る発明の要旨の認定は、特許請求の範囲の記載の技術的意義が一義的に明確に理解することができないとか、あるいは、一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明の記載に照らして明らかであるなど、発明の詳細な説明の記載を参酌することが許される特段の事情のない限り、特許請求の範囲の記載に基づいてなされるべきものと解される(最高裁判所平成3年3月8日判決・民集45巻3号123頁)。

これを本件発明についてみるならば、本件発明の特許請求の範囲においては、「外気連通開閉手段」について、「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」と記載されており、その技術的意義は、上記記載自体から、「所要の時、すなわち、必要がある時に、外気を試験室に送り込むようにした外気連通開閉手段」との意味において明確なものというべきであり、また、そこにおける「所要時」については、何らの限定も付されていないことが明らかである。

更に、一般に、「熱雰囲気試験装置」において、試験室内に外気を導入する設備が設けられている場合、技術常識上、外気を導入する目的が当然に「常温さらし」の点にあるものと解すべき根拠はなく、その目的としては、試験室内の圧力調整や、高温あるいは低温に設定した試験室内の温度の若干の上下調整等、種々のものが考えられるところであるから、本件発明における「外気連通開閉手段」についても、特許請求の範囲において、「常温さらしを行う外気連通開閉手段」の構成に限定していない以上、当業者としては、常温さらし以外の外気導入を必要とする種々の目的に対応できる外気連通開閉手段の構成を含む旨理解するというべきである。

そして、本件特許請求の範囲におけるその他の記載部分を検討しても、上記の「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」を、「常温さらし」用のものに限定して解すべき理由も格別見当たらない。

そうすると、本件発明の要旨を認定するにあたって、本件特許請求の範囲の記載中における、「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」の部分を、特に「常温さらし」のための構成を示したものと限定的に解することは許されないものというべきである。

(4)  以上によれば、原告の本件発明の要旨についての前記主張は失当であり、本件発明の要旨を、本件特許請求の範囲の記載のとおり認定した審決には、誤りはないものというべきである。

2  取消事由2(本件発明と引用例1記載の発明との一致点の認定の誤り)について

(1)  原告は、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」が、「所要時に外気を試験室に導入」することのできる、外気との「開閉手段」を備えた「常温さらし」のための設備ではないのに対し、本件発明における「外気連通開閉手段」は、上記のとおりの構成を有する「常温さらし」のための設備であることから、上記の「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」の構成と「外気連通開閉手段」の構成とは一致するものではないにもかかわらず、両者を一致するものとした審決の認定判断は誤りであると主張する。

(2)  しかしながら、本件発明における「所要時外気が試験室に送り込まれるようにした外気連通開閉手段」が、「必要があるときに、外気を試験室に送り込むようにした外気連通開閉手段」を一般的に意味するものであり、その「外気連通開閉手段」が「常温さらし」のための構成に限定されるものではないことは前記1に判示したとおりである。

(3)  他方、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」についてみるならば、

ア 引用例1記載の発明が、「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」により、試験室内の温度変化に伴う圧力調整のため、外気を試験室内に送り込む構成を備えるものであり、それにより、少なくとも「補助的に」、上記試験室内の温度調整がなされるものであることについては、原告も自認するところであり(請求の原因4(2)ア(エ))、また、同発明における試験室が、空気導管32から導入される新鮮空気により温度調整されるものであることは、成立に争いのない乙第1号証(引用例1)における次の記載からみても明らかである。

(ア) 「衝撃試験で必要とするような高速度の温度変化(60℃/min)は、公知の装置では得られない。(略)本発明によると、試験材料を動かすことなしに、温度可変器室の中で、急激な温度降下だけでなく、急激な温度上昇を得ることが可能である。(略)

試験室は、zusatzlichに(被告訳では「そのほかに」、原告訳では「補助的に」)新鮮空気で温度調整することができ」(1欄63行ないし2欄21行)

(イ) 「試験室には、zusatzlichに(被告訳では「さらに」、原告訳では「補助的に」)圧力調整器33とともに空気導管32を取り付けることもできる。」(3欄12行ないし14行)

(ウ) 「試験室6は別のセンサー28付きサーモスタット27で単独に制御でき、zusatzlichに(被告訳では「さらに」、原告訳では「補助的に」)新鮮空気32で温度調整することもできる。」(4欄3行ないし5行)

イ なお、本件発明は、上記のとおり、「外気連通開閉手段」として、外気導入のための「開閉手段」を備えるものであるのに対し、引用例1記載の発明においては、前出乙第1号証(引用例1)の記載によると、空気導管による外気導入を制御するための「開閉手段」が、同引用例に特に明記されていないことが認められる。

しかしながら、引用例1記載の発明において、「開閉手段」を有しない導管を設けるだけであれば、それにより試験室が常時外気と連通するに至り、試験室内の温度が常に変動を来すことになるため、同室内において、「高温さらし」又は「低温さらし」のための温度設定をすること自体が不可能になることが明らかである。

したがって、引用例1記載の発明においては、「熱雰囲気試験装置」としての性質上、新鮮空気により試験室内の温度調整を行うにあたって、空気導管に、空気の出入りを制御するための「開閉手段」が設けられていないということはありえず、引用例1においては、単に、その記載が省略されただけと認めるのが相当である。

ウ そうすると、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」も、たとえ原告主張のとおり「補助的」であるにせよ、(2)と同様の意味において、試験室内の温度調整が必要なとき、すなわち所要時に、外気を試験室内に送り込まれるようにする手段、すなわち「外気連通開閉手段」としての構成を備えているものであることが明らかである。

(4)  そうであるならば、本件発明における「外気連通開閉手段」については、引用例1記載の発明における「新鮮空気導管32及び圧力調整器33」に一致するものというを妨げないところであるから、その点についての審決の認定判断にも誤りはないものというべきである。

したがって、引用例1記載の発明について、更に「常温さらし」の構成が備わっているか否かを判断するまでもなく、原告の前記主張も失当といわざるをえない。

第4  以上によれば、審決には、原告主張の違法はなく、その取消しを求める原告の本訴請求は理由がないものというべきであるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 春日民雄 裁判官 持本健司)

別紙図面(1)

図面の簡単な説明

図面は本発明装置の一実施例を示すものであつて、第1図は機械収容部を除く縦断面図、第2図は平断面図、第3図は第2図のⅢ-Ⅲ視縦断面図、第4図は第2図のⅣ-Ⅳ視縦断面図、第5図は要部拡大断面図である。

1……本体、2……断熱壁体、2′、2″……仕切断熱壁体、5、5′……断熱空間部、6……外気出入口、7、12……扉、8、27、37……往復直線駆動体、10……試験室、11……試科出し入れ口、13……整流板、14、14′……風洞部、20……低温チヤンバー、21……冷却機の蒸発器、22、31……ヒータ、23、32……フアン、24……冷気入口、24′……冷気出口、25、25′、35、35′……遮断扉、26、36……軸、28、38……仕切扉、30……高温チヤンバー、34……熱風入口、34′……熱風出口、40……室温送入用フアン。

〈省略〉

〈省略〉

別紙図面(2)

ZEICHNUNGEN BLATT 1

Nummer: 26 50 686

Int. Cl.2: B 01 L 7/00

Bekanntmachungstag: 7. Juni 1979

〈省略〉

別紙図面(3)

〈省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例